たむらの日記

個人的な見解をちらほら

【書評】戦術とは何か。『戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史』

 

戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史

戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史

  • 作者: ジョナサン・ウィルソン,田邊雅之
  • 出版社/メーカー: カンゼン
  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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イギリス出身の戦術研究家であるジョナサン・ウィルソン氏と、ライターの田邊雅之氏によるサッカー戦術の思想史である。

本書の内容の前にまず目次をご覧いただきたい。

戦術トレンド概論 プレッシングか、ポゼッションか、それが問題だ。

60年ぶりに戻ってきた3バック

アンチカウンター理論としてのゲーゲンプレス

ゼロトップはどこへ消えたのか

ベンゲルと4―2―3―1の行方

10番/トップ下論 エジルが象徴するクリエイティビティのジレンマ

共産主義思想としてのプレッシング

ゾーン・ディフェンスがカバーする領域

アンチ・フットボールの誘惑と憂鬱

レスターと4―4―2に未来はあるか

ポチェッティーノが受け継ぐ、ビエルサイズムとは

アンチェロッティ式、「ハイブリッドマネージメント」のススメ

コレクティブカウンターの衝撃

モウリーニョが抱えるスペシャルな懊悩

ウイング論 左翼と右翼のウインガー

理想主義者、ペップ・グアルディオラの挟持

GK、100年の孤独 戦術

ディープ・ライイング・プレーメイカーの誕生 

 この通り、見出しがずいぶんと唆られる。

一つ一つの内容は深すぎず浅すぎず、これまでの戦術の進化を網羅的に理解するのに丁度良い。

 

アンチカウンター理論としてのゲーゲンプレス

 

近年のフットボール界では、ボールポゼッションをひたすら高めていくのではなく、効果的にカウンターを狙うべきだという見方が支配的にになってきている。

ところが実際には、カウンターから決まったゴールの割合は過去10年間で半減している。つまりデータだけを見るならば、今日のフットボール界に訪れているのは、カウンター全盛時代であるよりは、むしろカウンター受難の時代だという結論になる。

近年、FCバルセロナを中心とするポゼッション志向のチームが増え、それに対抗する策としてカウンターサッカーが注目されたのは言うまでもない。

日本の育成年代でもポゼッション志向のJ下部チームがカウンター志向の町クラブに敗れる機会も増えた。

 しかしヨーロッパのトップリーグではカウンターからのゴール数は減っているという。どうしてこのような現象が起きているのか。謎を解く秘密は、カウンターの戦術の浸透にあるという。

10年前に比べて、単純なカウンターからゴールが決まる割合が半減したのは、ヨーロッパのトップクラブが「カウンターへの対抗措置」を考えるようになったからに他ならない。

かつての戦術論議で争点となっていたのが守備から攻撃にいかにスムーズに移行するかであったとするならば、今日問われているのは、ボールを失って攻撃が失敗に終わった際に、いかに再び守備に戻るかというテーマになっている。

そう、クロップによるゲーゲンプレスだ。

ゲーゲンプレスの考え方は、相手がボールを奪って速攻に転じようとした瞬間にボールを奪い返し、攻撃を仕掛ける戦術である。

クロップの言う通り、ボールを奪い返すの一番良いタイミングは相手にボールを奪われた瞬間だ。なぜならボールを奪った選手はどこにパスをするか探しているからだ。

 

アンチフットボールを徹底するモウリーニョとシメオネ 

今日のフットボールでは大きく分けて2つのトレンドが主流を占めている。「ポゼッション」を突き詰める流れと、「プレッシング」を突き詰める流れである。

「ボールをつなぐ」と「ボールを奪う」というスタンスの違いはあるが、両方に共通しているのは自分たちからアクションを起こして試合の主導権を握っていこうとする点である。

その中でもアンチフットボールを展開したのが、モウリーニョとシメオネだ。

特にシメオネ率いるアトレティコは、バルセロナやレアル・マドリードといったビッグクラブに対して、限りあるリソースで勝利をおさめて来た。

しかし、最近のアトレティコには微妙な変化が伺える、と著者は言う。

「アンチフットボール」は、弱者が強者を相手に番狂わせを演じる際には、極めて大きな武器となる。

だがそこには大きな矛盾が潜む。下克上を狙うための戦略は、ある段階を越えると魔法が解けて、むしろ自分に弓を引いてしまう。結果を出し始めると、この手法時代が足かせとなると言ってもいい。クラブ側やサポーターは弱者のフットボールではなく、強者の戦い方を望むようになる。アンチフットボールを踏襲しているだけでは、試合を自らの手で能動的に動かし、勝利をたぐり寄せていくことも不可能になるからだ。

  来期のアトレティコはどのようなサッカーを展開してくるのか。開幕が楽しみでならない。

 

本書では、他にも3バックの復権やウイングの戦術変化など、面白い分析が多々あった。

指導者、アナリストはもちろんのこと、選手やサッカーファンにもぜひ手にとっていただきたい一冊である。

 

戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史

戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史

  • 作者: ジョナサン・ウィルソン,田邊雅之
  • 出版社/メーカー: カンゼン
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